精神医学ラボ

燃え尽き症候群(バーンアウト)
〜誰でも起こりうる消耗しきった状態〜

燃え尽き症候群とは?

燃え尽き症候群世界保健機関(WHO)が2022年に発行した国際疾病分類(ICD-11)に、新たに「燃え尽き症候群(バーンアウト)」についての定義が盛り込まれました。

バーンアウト症候群は1974年に初めて学術論文で取り上げられた概念となります。
提唱したのはアメリカのハーバート・フロイデンバーガー(Herbert J. Freudenberger)という医師です。
彼はもともと保健施設に勤務しており、その際とても多くの同僚が少しずつ、しかし確実にエネルギーを消耗していくかのように仕事に対する熱意・関心を失っていくさまをみていました。このことがバーンアウトを研究するきっかけになったと言われています。

燃え尽き症候群という名称が一般的に浸透するはるか昔から、既に認知されていた現象ということになりますね。

燃え尽き症候群は、うつ病や不安障害・依存症などと異なる点があります。
あくまで「仕事上の現象・状態」であるという見解をWHOが明確に示している部分です。

つまり、燃え尽き症候群は生活で起こるものではなく仕事で起きるものと限局されており、現時点では「精神疾患・障害とも異なる」とされています。
ICD-11では「健康状態に影響を与える要因」という項目に位置づけられており、仕事への不適応を起こした状態になります。
対人サービス業に携わっている人や、それ以外でも燃え尽き症候群を招きやすい条件にある人であれば誰でも起こりうる可能性があるのです。

しかし、対人サービスとはいっても広い意味でいえば多くの人が当てはまるかと思います。対人サービス業のどの要因が燃え尽き症候群を引き起こしやすいのか?具体的にどのような症状がみられるのか?
一つずつ見ていきましょう。

燃え尽き症候群の定義

燃え尽き症候群(バーンアウト)には「Maslach Burnout Inventory(MBI)」と呼ばれる尺度が存在します。
具体的には、

  • 情緒的消耗感
  • 脱人格化
  • 個人的達成感の低下

の3つの症状により定義されています。

① 情緒的消耗感

“仕事を通じて情緒的に力を出し尽くし、消耗してしまった状態”です。
燃え尽き症候群では、この「情緒的消耗感」が主症状となります。

しかしこの言葉を見ても多くの人が、「情緒的」に「消耗する」とはどういうことだろう?と感じるかと思います。
これはいわゆる身体的な消耗と異なり、簡単にいえば心のエネルギーが消耗していくという意味と捉えると理解しやすいでしょう。

基本的に対人サービス業というのは身体的労働の他に、

  • 人に対する思いやりを持つこと
  • 信頼関係を築き、周りに配慮すること
  • 倫理観を守り、人としてあるべき姿を保ち続ける
  • 相手の身になって考え、相手の希望に沿う
  • 相手の疑問に誠意をもって答え、不安を解消する
  • 時には自分の意見を飲み込み、相手の要望を取り入れる

など、精神的な労働も多く必要になってきますよね。
体を使い「肉体労働」しているとともに心を使い「感情労働」も行っている、と表現したほうが分かりやすいでしょうか。

そしてこれらの感情労働を、「頻回に・常に」「多くの対象に」行わなくてはならないのも対人サービス業の特徴といえます。
特に教員であれば担当クラスの子どもたちをはじめ、その両親や背景にまで配慮を求められ、医師・看護師などの医療職であれば患者やその家族にも細やかなアプローチが必要になってきます。

そしてこれらの感情労働・・・つまり「情緒的な消耗」を何度も何度も、月・年単位で繰り返していくうちに、まるで「枯れてしまった」かのように感じるほど消耗しきった状態になります。

心のエネルギーというものは目に見えにくいため、「なんとなく疲れているな」とか「仕事に行くのも嫌だな」と思っても自分がどれくらい消耗しているかを認識することは難しいです。
「でも大抵の人が行きたくないと感じながら頑張っているんだろう、仕事とはそういうものだ」と感じやすいため、なおさら消耗が当たり前のものとして捉えられがちです。

“エネルギーを使い果たしてしまった”、“枯れ果てた”という感覚は単なる比喩表現ではなく、まさに心のエネルギーを消耗しきった状態を正確に表しており、これこそが、燃え尽き症候群の中核をなすと言われているのです。

また、下記の2つの症状の大元の原因ともされています。

② 脱人格化

“サービス業の対象となる相手、あるいは同僚などに対して、思いやりのない・非人道的な態度をとる”症状のことです。
いい加減な態度が増え、攻撃的になり、不遜な言動をしてしまうことも増えていきます。
遅刻・欠勤を繰り返したり、職場の人に対しても顧客・利用者に対しても関心を示さなくなります。
この他に、

  • サービスの受け手(顧客・利用者・患者など)の人格・人権を無視した扱いをする
  • 個人名を呼ばなくなる(患者を診断名で呼んだり、カテゴリ・ラベル付けして呼ぶ)
  • 対人的な業務を避けたがり、事務的な業務のみを好むようになる
  • 相手が理解できないような専門用語を並べ立てて会話するなど、配慮のない行動をとる
  • 同僚とのコミュニケーションを蔑ろにし、意思疎通が図れなくなる

といった現象も現れます。

これは前述した「情緒的消耗感」による二次的な症状であり、人は情緒的エネルギーを使い果たしてしまうと、それ以上消耗するのを防ごうとします。
その結果、「ちょっとした思いやり」や「倫理観を守る」などといったことが出来なくなってしまい、上記のような状態に陥ってしまうわけです。

他の人からみれば、今まで熱心に取り組み・成果を出し続け・また相手のことを慮って考えてきたような人が、このような行動を起こすようになるためかなりの落差を感じることになります。問題行動にしか見えないことも多々ありますが、本人にとっては重要な防衛反応となります。

「これ以上、心的エネルギーを割くことはできない」というサインでもありますし、「献身的な態度をとってきたにも関わらず期待した結果が見えないのは職場や周りのせいだ」と
自分以外の所に原因があるのだ、と思い込むことで自分の心を守るシステムともいえるでしょう。

③ 個人的達成感の低下

個人的達成感というのは“対人サービス業によって獲得される達成感・有能感”を指します。
「情動的消耗感」「脱人格」という2つの症状は、極端な業務遂行能力の悪化・また質の悪化を招きます。

その結果、当然ながら自分の目からみても他者の目からみても、明らかに成果を出せなくなり、質を確保できなくなるため、これに伴い個人的達成感の低下が起こるのです。
また、業務が遂行できたり成果がある程度見られても喜べなくなったり、有能感が低くなったりして自己嫌悪に陥ってしまい、この職場にいても何の意味もない、と思い込みがちになります。

「やり甲斐」や「達成感」という仕事を行う上での原動力も失われていき、そもそも今まで頑張ってきたことに対しても無意味で無駄な時間だったと感じるようになります。
そうなると仕事がただ精神的に消耗していくだけの作業になってしまい、離職に繋がることも珍しくありません。

燃え尽き症候群を引き起こしやすい要因

燃え尽き症候群(バーンアウト)と関連性の高い職業と個人特性・社会的要因を述べていきます。

燃え尽き症候群と関係性の高い職業

  • 医師・看護師などをはじめとした、医療従事者
  • カウンセラー・相談員・介護士・社会福祉士などの福祉サービス業
  • 教員・保育士
  • カスタマーサポート・コールセンター
  • 営業職
  • その他接客業

上記の対人サービス業以外にも、広義で人と接する機会のある職業にもリスクがあるとされています。
特に、対人援助職と言われる医師・看護師・教職員はハイリスクな職業です。
救急医など、一刻を争う必要がある特性があるとともに業務量の多さ、生活リズムの乱れ・訴訟リスクの高さ(命に係わる現場であるため)から、燃え尽き症候群に陥る危険性を常に念頭に置く必要のある職業となっています。

他にも、

  • 担当しているクラスの保護者に「これは先生の役割ではないんですか」と責められる
  • 興奮している患者に「あっちへ行け」などと言われ、役割を通り越して生身の自分自身に言われているように感じる
  • いろいろと対策を練って提案したにも関わらず、クライアントに満足してもらえなかった
  • ここまで治療しているのに良くならないのは治療方針が間違っているためではないか、無責任なのではないかとクレームを入れられる
  • 業務内容とは大きく外れた、過剰なサービスが求められる

といったような事柄が起こりやすいのが対人サービス業の特徴です。

それが仕事上の問題ではなく自分自身の問題であるような気がしたり、自分には向いていないのではないか、といった考えを持ちながら更に仕事を続けていかなくてはならない事も多くあります。

個々人の気持ちとは裏腹に仕事は待ってくれません。精神的な消耗を感じつつも、トラブルを発生させないようにさらに最新の注意を払ったり、とにかく気遣いを徹底しているうちに過剰に情緒的エネルギーを使うようになっている。

しかし、その成果が出るときもあれば出ないときもあり、更に情緒的エネルギーを使うことになり・・・ということを繰り返していると、あるとき「使い果たした」状態になってしまう。対人サービス業ではこのような事態に陥ることが、なんら不思議ではないことが分かります。

「頑張った甲斐があった」「この仕事をしていてよかった」という経験があれば、情緒的エネルギーを蓄える機会にもなるでしょう。努力をした分だけ返ってくるとは限らないのです。

相手が患者であれば「余計なお世話だ」と返されるかもしれませんし、クライアントであれば「こんな品質では納得いかない、何度訂正させれば気が済むんだ」と不満を直接言われるかもしれません。
いくら頑張っても終わりが見えてこない、結果がまるで出ていない、あるいは失望されるような出来事が重なるかもしれません。

懸命に仕事に打ち込み、サービスの受け手に感情移入しやすい人ほど、「もっと努力しなくては」「もっと相手の身になって考えなくては」と次々と消耗する機会に見舞われ、急に情緒的エネルギーがなくなり意欲も見られなくなってしまい、言葉の通り「ぬけがら」になる・・・・そんなこともあり得るでしょう。

また、経験が浅い(技術力が低い)ほうが、燃え尽き症候群に陥りやすいとされています。膨大な業務量でなくても、技術力が高い人に比べて心的ストレスがかかりやすいからです。

燃え尽き症候群と関係性の高い個人特性

  • 真面目
  • 実直で、ひたむきに突き進む
  • 人と積極的に・深く関わろうとする
  • 理想を追い求めやすい
  • 完璧主義で、スケジュール通りに物事が進まないと気が済まない
  • 仕事・家庭・プライベートを含めすべての面で努力をしなければ、と気を張りやすい

などという特性を持つ人は、情緒的エネルギーを消耗しやすく、燃え尽き症候群を招きやすいといわれています。

真面目

ただ、この個人特性こそが対人サービスの質を担保していることは明白であり、誰にでも一定にマニュアル的な対応をする人・淡々と業務を遂行する人は基本的に対人サービスには向いていません。
ここに、“燃え尽き症候群を招きやすい特性を持つ人こそが、対人サービス業に向いている”というジレンマが生まれてしまいます。

また、対人サービスの成果は「その相手が満足したかどうか」という部分に大きく左右されるため、真面目でひたむきに向き合っていても思ったような成果に繋がらない(つまり、サービスの受け手が満足しない)ことも充分有り得ます。

このような特性を持つ人たちは、そのような場面に出くわすと“誠意が足りなかったのではないか”、“自分の勉強不足のせいでうまくいかなかったのではないか”とより消耗してしまうこともしばしばあります。

職業人としての課題ではなく、まるで自分のアイデンティティの問題かのように捉えるようになってしまい、次第に感情そのものが無いかのように心を閉ざしていく状況になりやすいのです。

燃え尽き症候群と社会的要因

既出のとおり、燃え尽き症候群(バーンアウト)自体は昔から確認されていた概念になります。
しかし平成27年になりようやく、ストレスチェック制度が厚生労働省によって整備され、メンタルヘルスの不調を本人や企業が察知・分析できるツールとして一定の事業所で義務化されました。

ストレスチェック自体はバーンアウト予防のためだけに作られたものではありませんが、労務環境などで仕事上強い不安を感じ、メンタルヘルスの不調を招く・休職する人が年々増えてきたことが、この制度が始まった背景となっています。

一体どのような社会的要因が、メンタルヘルスの不調と関係しているのでしょうか。

顧客満足度を重要視するようになった

車やマイホーム、おしゃれな服やバッグ・・・それらの「物」を消費してきた時代から大きく変わり、「体験」の消費をする時代に移り変わってきています。
品質や機能は大きく変わらないものが世の中にあふれ、安く簡単に手に入るようになり、人々は物を買おうとするよりも良質な体験を買うことを重要視するようになりました。

企業側は商品やサービスを差別化するために、顧客満足度の向上に力を入れるようになり、結果的に対人サービス業の感情労働の重要性が増しています。
顧客の気持ちや背景に寄り添ったサービスの提供、高い接客技術などは企業業績との関連性が高いために、企業から・また顧客から感情労働の求められる機会が格段に増えているというわけです。

企業の業績を上げるのに、商品の品質ではなく感情労働の品質が求められるようになったことは、バーンアウト症候群をより引き起こしやすくなった一因といえるでしょう。

SNSの発展

SNSSNSの発展により、消費者の声がダイレクトに他の消費者に伝わるようになりました。
いい加減な対応をすれば、それはSNS上でたちまち拡散されるリスクをはらんでおり、サービスの提供側の行動一つで、ブランドイメージを大きく損なう恐れもあるのです。

消費者と企業のパワーバランスが大きく変化しているため、企業側は特にサービスの提供者に高い基準を求めるようになっているのが現代の特徴でもあります。

うつ病との関連性など

いくつかの論文で、燃え尽き症候群とうつ病の双方向性が指摘されています。
双方向性というのは、燃え尽き症候群からうつ病が発現すること・逆にうつ病から燃え尽き症候群を招くこと、どちらも有り得るということです。

燃え尽き症候群は初期のころ、つまり情緒的消耗感が少しずつ見られ始めているころからうつ病と似たような様相を呈します。
気力を無くし、エネルギーが見るからに枯渇していき、他者や他の物事に無関心な様子を見せるというのは、確かにうつ病と同じような症状になります。

そのため、症状が進んでくるとうつ病との完全な区別というのは難しくなるでしょう。
燃え尽き症候群自体は病態ではないため、うつ病の診断結果に当てはまった場合は、原因に関わらずうつ病の診断を受け治療することになります。

後述しますが、燃え尽き症候群の場合でもうつ病と同様の治療を進めるのが一般的なアプローチです。
そのため、「うつ病と診断されてうつ病の治療を受けているけど、本当は燃え尽き症候群なのであれば、この治療は効果がないのでは?」と心配する必要はありません。

また、燃え尽き症候群のように“一定の期間ひたむきに・熱心に打ち込む時期があり、その結果情緒的消耗感を引き起こす”状態もあります。

空の巣(からのす)症候群

空の巣症候群“母親の燃え尽き症候群“、“燃え尽きうつ病”などといった名称で呼ばれる状態の一つです。
燃え尽き症候群は起因が仕事に限局されていますが、こちらは子どもが巣立ったあとに感じる空虚感とされています。

つまり子どもの養育に長年必死になっていたものの、ある日子どもが自立し巣立っていくことで、保護者が自分の役割を喪失したように感じられ、強い孤独感を感じたり空っぽのように感じてしまい、ひどい落ち込みがみられる現象になります。
涙もろくなったり、動悸がしたり、何をしていてもつまらないといった無気力状態から、うつ病に発展することもあります。

特に子育てが生きがいと感じている場合、その生きがいが急になくなってしまうわけですから、「これから何をすればいいんだろう」「自分の人生は一体なんだったんだろう」と感じ、その変化に適応できなくなってしまう人が出てくるのはおかしいことでも何でもありません。

荷下ろしうつ病

仕事や子育てに限らず、一つのことに熱中しストレスがかかり、そのストレスのピークが過ぎると一気に疲れが押し寄せ、無気力な状態(うつ状態)になる状態を指します。

人間は、ストレスがピークに近づくときは気を張っているため、精神状態をなんとか保っている状態のことが多いです。
しかしいったん落ち着いたり気が緩むと、それまで一心不乱に努力していた時の疲労が一気に押し寄せ、落ち込みが続くことでうつ病になることがあります。

  • 試験に頑張って合格したのに、試験が終わったらなぜか何もやる気がなくなった
  • 家族を施設に送ったため、これ以上介護をしなくて済むとホッとしていたのに、家事をするのもおっくうになった
  • 借金をやっと返し終わったら、生活に張り合いがなくなり、動けなくなってしまった

など、原因も症状も様々です。

燃え尽き症候群を予防するためには

上記を踏まえると、燃え尽き症候群に陥るのを防ぐためには、「情緒的エネルギー」を必要以上に使う状況からまず改善する必要があることが分かります。

サービスの受け手との適切な距離を保つ

医療職であれば患者や家族、営業職であればクライアントなど、サービスを受ける側に親身になって対応していると、それがいつの間にか負担になっているということも少なくありません。
“仕事上の役割であると割り切る”というと冷たい表現に感じる人もいるかもしれませんが、これはサービスの受け手と自分との関係性を冷静に客観視するという意味では、ある程度情緒的エネルギーを防ぐ方法として使えるでしょう。

ただ、この方法は燃え尽き症候群を予防する手段であるのと同時に、「そこまで割り切って仕事をすることに価値を見出せない」と逆効果になるパターンもあるようです。

特に、人と深く関わって支援することに喜びや意義を感じてきた人や、細かい関わりやある程度踏み入ることが必要な業務を担ってきた場合は、精神的な距離を保つというのは難しい場合もあります。

対人的な業務と距離を置く

「脱人格化」で紹介したような症状の一つである“事務的な業務のみを好むようになる”というのは、サービス業を行う上では問題になるかもしれません。
しかし対人的な業務からいったん離れ、情緒的エネルギーの消耗を防ぐという意味では有効な手段です。

休職・退職などといった社会から完全に離れる期間を設ける必要があれば別ですが、そうでないときはまず対人的な業務をしない環境に身を置く、一時的な配置転換といった方法がとれるように、職場に配慮してもらうことが重要になってくるでしょう。

燃え尽き症候群の治療

燃え尽き症候群に対しては、うつ病と同じ治療を用います。
双方は関連性が高いため、うつ病を併発するパターン、あとからうつ病のような状態を呈するパターン、あるいはうつ病を発症したのちに燃え尽き症候群の定義を満たすような様相をとるパターンがみられることもあります。
そうでなくても、うつ病の治療が燃え尽き症候群の症状の軽減に効果を発揮します。

いわゆる休息と薬物療法がメインとなっていきますが、情緒的消耗感は情緒的エネルギーの枯渇が原因となるため、休息というのは身体的にではなく、情緒的に消耗しない(しにくい)環境作りが必要になってくるでしょう。

「仕事のしすぎで疲れてしまっただけだ」と思う人も多いため、なかなか治療まで行きつかない場合もあるでしょう。
ただ、原因に関わらずうつ状態というのは長引いてしまうこともあるため、早期に医療機関に相談することが大事になってきます。

薬物療法

主に抗うつ薬を用いて治療を行います。
副作用の程度などを確認しながら、用量・種類を調整していくことになります。
その他不安障害などを併発している場合や不安感が強い場合など、抗不安薬を用いたり眠れないといった場合には睡眠導入剤を使用するなど、症状に合わせて薬が処方されます。

「仕事場に迷惑をかけているのに休むなんて、無責任な気がする」「休み方が良く分からない」「うつ病ではないと思うから、薬を使うのは抵抗がある」といった場合もあるでしょうし、そういった考え方を急に変えるというのはなかなか難しい作業です。
しかしまずはいったん医療機関や薬の力を借り、疲弊した心に力を蓄えやる気を取り戻すことが先決となります。

症状を抑え込むだけでは根本的な解決にならないのでは?と感じる人もいるかもしれませんが、まず症状を軽くすることが第一歩となります。燃え尽き症候群の症状というのは無力感も伴う、とても辛いものです。

疲弊しきった心では、何も気力が湧かず、どうすれば必要以上に消耗せずに仕事ができるようになるか?という所まで行きつくことができません。
燃え尽き症候群が進むと、前向きな・建設的な考え方が難しくなってしまうからです。

抗うつ剤は直接に脳に作用し、主にセロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミンなど、「モノアミン」と呼ばれる精神の安定に関わる脳内物質を増やすことで、精神のバランスをとってくれる薬になります。
効果が現れるまでは時間を要するため、用量を守り・気長に服用を続け、根気強く治療を行っていくことが必要です。

認知行動療法

認知行動療法とは、物事の捉え方に焦点を当てて、その人の認知のゆがみを改善していくアプローチ方法です。

性格を変える治療法などではなく、あくまでその人の「認知(イベントや出来事に対する考え方)」に着目し、社会生活をする上で出来るだけ楽に、自然体で物事を捉えて適切な対処ができるようになるための手段になります。

「几帳面」「努力家」「ひたむきで誠実」というのは、バーンアウトを引き起こしやすい性格特性ですが、それ自体は社会生活をする上ではメリットと言えるのではないでしょうか。

その特性が過剰になってしまう場合、何らかの原因があります。どんどんネガティブな・極端な捉え方になればなるほど、がんじがらめになり、行動や思考の幅が狭まってしまうのです。
ネガティブな捉え方というのは、

  • 自分がこの仕事をしていても何の役にも立てない
  • 自分が夜勤の時に限って問題が起こるのは、自分の管理が不十分だからだ
  • 今すぐに、職場から姿を消してしまったほうが世の中のためだ
  • クライアントから褒められることがないのは、この職場で自分だけである
  • 仕事で失敗したら、人間としても失格だと感じる
  • 生徒から信頼されないのは、自分にそれだけの能力がないからだ

といったような、物事に対する思考のことです。
まるでそれが事実で、その思考が全ての結果であるかのような思い込みになってしまい、これらの思考が自分の精神をどんどん削ってしまいます。

ネガティブな捉え方の癖があるときは、それを現実的な捉え方にできるように少しずつ修正する。それが認知行動療法の役割です。

まとめ

院内燃え尽き症候群は、対人サービス業に携わる人に関わらず、仕事上で感情労働を行う機会を持つ人であれば誰にでも起こり得ます。

特に地道に頑張ってきた人・夢中で走り続けてきた人が何か大きなゴールを達成して次の目標を見失ったとき・期待していたほどの成果がみられず心にぽっかり穴が開いてしまったとき、急に陥ってしまう可能性もあります。

感情労働をし続けていると自分自身の消耗に気づきにくい状態になり、少しくらい疲れていても頑張ってしまうのが人間です。企業にも顧客にもそれが求められる世の中ですから自然といえば自然でしょう。
しかし体力が無限ではないように、心のエネルギーも際限なく湧いてくるものではないのです。

ストレスなど無いはずなのに、なぜか活力が湧いてこず、どんどん仕事場に向かうのが辛くなっている。いつのまにかトラブルを起こすようになってしまい、顧客や職場の人間関係が悪くなってしまっている。既に何を目的に頑張ればいいのか、分からないしどうでもよくなっている。

そういった感情が自分の中にある場合は、情緒的エネルギーが枯渇する前兆・あるいは枯れ果ててしまっている状態である可能性があります。

たかだか仕事のことで医療機関を受診するなんて・・・と思っても、まずは自分の状態を適切に捉えることが大切です。自分が思っているよりも精神的に疲弊してしまっている可能性もあります。
なぜか活気がなく、落ち込みが治らないなどといった場合は、程度に関係なく専門医に相談をしてみるのがベストといえるでしょう。

監修

新橋メンタルクリニック
院長 狩野 彰宏

「メンタルケアで全ての人が今よりも生きやすく輝ける未来を目指して」

明るい未来を紡ぐために、当院は一心一意に皆様の心に寄り添ってまいります。
心のお悩みや困りごとがありましたら、どうぞ何なりとお問い合わせをくださいませ。

院長

「メンタルケアで全ての人が今よりも生きやすく輝ける未来を目指して」

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