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「カサンドラ症候群」とは何か
〜いちばん近しい人と、共有できない〜

カサンドラ症候群とは?

カサンドラ症候群カサンドラ症候群とは、パートナーや近しい人がアスペルガー症候群をはじめとした共感性の低い特性がある場合に起こる、心身の不調のことです。
「カサンドラ情動剥奪障害」や「カサンドラ状態」という名称が使われることもあります。

アスペルガー症候群というのは発達障害の一種で、現在では自閉傾向を持った発達障害全般を含め「自閉症スペクトラム障害」という名称に変わっています。メディアやSNSの発達により近年耳にする機会が多くなった名称でもあり、アスペルガー症候群という名前の方が聞き馴染みがある方も多いかと思います(そのため、今回の記事ではアスペルガー症候群という名称を主に用いていきます)。

「カサンドラ症候群」自体は、疾患や障害として医学的に確立しているわけではありません。そのため、精神疾患の国際的診断基準(DSM-5)には記載がない名称です。

“パートナーの共感力の低さが、個人の心身の不調を招く”という概念が初めて提唱されたのは1988年です。比較的新しい概念でありまだまだ一般的に浸透している名称ではありません。

しかしアスペルガー症候群の名称がメディアの発展を通じて広まってきたのと同様に、アスペルガー症候群の周りにいる人たちも、「言いようのない苦しみを日常的に味わっている」こと、また「眠れない、常に疲れ切ってしまい、感情のコントロールが難しくなる」などといった症状を引き起こすことが認知されてきています。

その苦しみや症状が、アスペルガー症候群をはじめとした共感性の欠如が目立つ人をパートナーに持つ者特有の症状であること、また「カサンドラ症候群」という名称で呼ばれることも、少しずつ浸透してきているのではないでしょうか。

しかし、身近にいる人がアスペルガー症候群なのであれば、“ある程度の大変さは誰にでもあるのでは?”と考えがちですよね。
しかしカサンドラ症候群への理解を深めると、カサンドラ症候群特有の苦しみが存在することが分かります。
カサンドラ症候群の症状や、心身の不調を引き起こす原因をアスペルガー症候群の特徴と共にひも解いていきましょう。

概要

カサンドラ症候群について初めて言及したのはローリー・レイトン・シャピラという心理学者です。
パートナーの共感能力・想像力が低いことで、感情を共有したり共感を得られないために心の通い合いが乏しくなり、心身の不調をきたすのがカサンドラ症候群の概要となります。

名前の由来

「カサンドラ」というのはギリシャ神話に出てくる王国トロイの王女の名前です。
彼女は物語の中でアポロン神に愛され、予言の能力を授かります。しかし、皮肉にもその予言の力でアポロン神が自分を捨てて去ってしまう未来を視てしまい、彼女はアポロン神を拒絶してしまうのです。当然、アポロン神はこれに激怒します。
授けてしまった予言の力を消すことは出来ないため、代わりに、「カサンドラの予言は誰にも信じてもらえない」という呪いを彼女にかけたのでした。

その後カサンドラは予言の力を持ちながら、これから起こる未来の話をしても誰にも信じてもらえない・・・という不遇の人生を送ることになります。

アスペルガー症候群の人は、発達障害があっても仕事は真面目にこなしたり勤勉である、社会的にある程度適応しているパターンも多く見受けられるため、そのパートナーが「自分が辛い状況に置かれているということを誰に訴えても」第三者に分かってもらえない、という状況に陥りやすいのです。
シャピラはこの比喩表現として「カサンドラ」の名をとったと言われています。

性差

カサンドラ症候群は女性のほうが多いとされています。
これは、アスペルガー症候群が男性のほうが多いため、必然的にカサンドラ症候群に陥るのは女性のほうが多くなるからです。

カサンドラ症候群の定義

現在のカサンドラ症候群の定義は、

  1. パートナーが、(アスペルガー症候群などによって)共感的・情緒的表出の障害を抱えている
  2. パートナーとの関係において情緒的な交流の乏しさ・激しい葛藤や不満・虐待などがみられる
  3. 心身的症状がある

となっています。

カサンドラ症候群を最初に言及したシャピラによる定義では、これらに加えて「自分の精神的苦痛を訴えても理解してもらえない」という要件も入っています。
医学的な定義とは言い難いものの、カサンドラ症候群という名称の由来にもなっている特徴ですから、大きな要素の一つともいえるでしょう。

定義の中身について、具体的に記していきます。

① パートナーが共感的・情緒的表出の障害を抱えている

アスペルガー症候群以外でも、各種パーソナリティ障害や共感能力が低いなどの症状がある場合、そのパートナーはカサンドラ症候群に陥るとされています。

主には、想像力に欠け相手の立場になって物事を考えるのが難しいとされる「自閉症スペクトラム障害」、また診断はなくてもその傾向を持つ人なども対象に含まれます。

「自閉症スペクトラム障害」という名前はあまり認知されていないため分かりにくい表現かと思いますが、以前は別々に考えられていた「自閉症」や「広範性発達障害」、そして「アスペルガー症候群」など、対人関係が苦手でこだわりが強い特性を持つ発達障害を同じ障害として捉えるようになったため、このような名称となっています。

つまり、どのような原因があれ、一方が共感能力や相手の身になって考えるなどの想像力が低く対人関係が苦手である特性を持つ場合、そのパートナーはカサンドラ症候群を起こす場合があるということになります。

共感能力の低さというのは、人間関係を構築する上で大きな問題になることがありますが、表面上は「理解しているような態度をとる」こともできるため、交際中は気にならなかったのに結婚してから明らかになってくるパターンも多々あります。

②パートナーとの関係において情緒的な交流の乏しさ・激しい葛藤や不満・虐待などがみられる

カサンドラ症候群に陥る人は決まって、上に説明した「パートナーの共感性の低さ」が原因となり、パートナーとの関係性に大きな問題を抱えています。
ここでいう「情緒的な交流」とはどのようなものを指すのでしょうか。

パートナーからの「共感的応答」の乏しさが目立つ

たとえば、パートナーに日常や仕事上の出来事などを伝えるとき、人は感情を共有したいという目的を持って話しかけます。

仕事上で失敗したという話であればパートナーに悲しかったり恥ずかしかったりする気持ちを理解してほしい、その上で慰めてほしいかもしれません。
あるいは日常生活でイレギュラーなことが起きてすっかり疲れてしまったというときは、その体験を話したうえで、労をねぎらってほしいかもしれません。
ある一定の反応を期待して、話を持ち掛けることが大半でしょう。

このように、人との会話をする上で「そうだよね」「大変だったね」という気持ちを示し、こうした期待に応えることを「共感的応答」といい、人間関係を円滑に回すためにとても大事なものになります。
人は共感的応答が得られると、「自分の気持ちを理解してもらえた」と安心できるからです。
そしてその相互関係により「愛着関係」が育まれていき、人間関係は強固なものとなっていきます。

またパートナーである以上は、些細な出来事や今後のイベント、将来のことについてコミュニケーションを取ったり話し合っておきたいこともあるでしょう。
こどもがいれば、こどものライフイベントについて色々と打ち合わせておく必要も出てきます。

しかし、パートナーの共感力が低かったり想像力に乏しい場合、パートナーはその意図を理解できず、「共感的応答」が必然的に少なくなります。
なぜその話をし始めたのかが分からない場合も珍しくないのです。

もし自分がすっかり疲れたというエピソードをパートナーに話した後に、「そうなんだ、疲れたんだね」とただ表面的に言われたり「それで、今日の夕ご飯は?」と返されたら、自分の話はまるで聞いていないのでは?と思うこともあるでしょう。
理論的に物事を考えやすいタイプだと、その場の状況を深く考えず「そういうときは、こうするべき」と理屈っぽく淡々と結論だけ述べることもあります。

しかも結婚生活の中で、それがひたすら繰り返されることになります。
本来は感情や体験を共有して愛着関係が築かれていくのに、それが出来ないわけです。

共感力が低い人の場合、わざとやっているのではなく表面上の話しか捉えることができない特性があります。そのため日常のエピソードを言われても「ただの報告」としてしか話を理解することができません。
表面上・文字面として理解することは出来ても、相手の気持ちまで理解することが難しく、言葉の裏には「理解してほしい(この辛さや大変さ・喜びや楽しさ)」という心があるということまでくみ取ることが出来ないのです。

もちろん、自閉症スペクトラム症やその傾向がある人の共感能力の程度によっても変わりますが、パートナーの反応にがっかりしてしまう・あるいは理解してほしいことほど理解してもらえないという辛い状況に陥りやすいのが、カサンドラ症候群を招く一因といえるでしょう。

カサンドラ症候群で起こる心の葛藤

また、これらの出来事(理解・共感してもらえない)を繰り返すと、どうなるでしょうか。

最初は「自分は愛されていないのだろうか」「何か振る舞いがよくなかったのだろうか」と不安になり、自分の態度を振り返ろうとします。

しかし、どんな対応をしてもパートナーの共感性が低いと、そのうちその不安が怒りや失望に変わってきて、「どうせ、言っても理解してくれない」「共感してもらえないことで傷つくのは嫌だ」と思うことで、何か楽しいことや大変なことがあっても言わなくなってしまいます。

こうして、情緒的交流の乏しさがますます目立っていきます。しかし、本当に理解してほしいパートナーに理解してもらえない・そして今後も無理解が続いていくという辛さは、想像を絶するものです。
何のために結婚したのか分からない、という考えにまで追い込まれることもあるでしょう。

結婚した理由がわからない「伝えても傷つくだけ」「伝えなくてもモヤモヤする」という状況になり、どちらをとっても逃げ場が無くなります。心と心の通い合いができないという状態は、精神的に非常に不衛生な結果を招くのです。

そもそも共感性の低い人は感情を共有したい、理解してほしいという気持ちを持っていないことも多いため、情緒的交流に乏しいことは何ら問題ではありません。

しかし、そのような傾向を持つ人と結婚した相手にとってはストレスが溜まる一方なのは火を見るより明らかでしょう。

パートナーへの虐待もみられる

カサンドラ症候群に陥った人は、心の通い合えないパートナーに酷いいらだちを覚え、そのいらだちの原因にすら気づかないことにも更に怒りを増幅させます。

そうしてストレスが極限状態にまで達すると、昔でいう「ヒステリー」の状態を引き起こします。
急に興奮状態になって暴れだしたり、金切り声で叫んだり、横暴になってパートナーに掴みかかったり・・・。虐待に発展することもあります。
そこまで極限状態になっても、共感力・想像力の低いパートナーには意味が分かりません。なぜそこまでストレスが溜まっているのか、何度説明されても理解できないのです。

むしろただのヒステリー、わがまま、自己中として片付けられてしまいます。

しかしカサンドラ症候群に陥った人はそれまで「共感してもらえない」「自分の気持ちを理解しようともしてくれない」という、いわゆる心理的虐待を常に受け続けてきているのと同じです。
その積もり積もった憎悪と、先に出てきた「葛藤のストレス」が大きな誘因となり、虐待に発展することも有り得るのです。

心身的症状がある

カサンドラ症候群の身体的・精神的症状としては、

  • 自己評価・自尊心の低下

  • 抑うつ状態(慢性的な気分の沈み)

  • 罪悪感

  • 不安障害・不眠症・PTSDなどの精神症状

  • 体重の増減

  • 鈍重感

  • 情緒不安定・イライラ

などが挙げられます。

しかしこれは一例であり、他にも片頭痛を抱えていたり、無気力・易疲労性・めまいや手足の震えなどの自律神経失調症を引き起こしているパターンも見受けられます。

そしてその不調が改善されないことで、いつしかうつ病などの精神疾患にまで発展することも稀ではありません。
そこまで状況が悪化してようやく、医療機関を受診する人もいるでしょう。
その時点では自分に何が起きているのか、状況が良く分かっていない人も存在します。

そういう人が医療機関に相談して背景を明らかにしているうちにようやく、どうやらパートナーの共感性に問題があり、カサンドラ症候群に陥っているようだと発覚することもあるのです。

また、共感してもらえないというストレス以外にも、パートナーに発達障害や精神障害があったり、その傾向があることで、

  • 特定のパターンやマイルールにこだわりやすく、それを守れないとパニックになる

  • 場の空気を読まず、不適切な発言をしてしまう

  • 相手の表情が読み取れず、不快に思っていることが分からない

  • 自分の興味のあることだけ延々と一方的に話す

  • よく分からないタイミングで怒りだす

といったような部分も目立ち、それ自体もストレスが溜まる一因になっていることもあります。

<共感してもらえないという苦しみ>

この苦痛こそが、カサンドラ症候群の名前の由来そのものを表している状態といえるでしょう。

パートナーから共感してもらえない

共感的応答ができないパートナーが、自閉症スペクトラムの中で以前はいわゆる「アスペルガー症候群」として分類されていたような特性を持っている場合、なぜ相手がストレスをため込んでいるのか理解しづらい典型といえます。

真面目で勤勉、融通は利かないところがあるものの記憶力はよく、専門分野では力を発揮するタイプで仕事はうまく回せるケースもよくみられます。
「正しいか正しくないか」や「細かい部分」にこだわりやすいため、「仕事もしっかりこなしている」「家庭を支えているしギャンブルをするわけでもないのに、相手は何が不満なのか?」と考えることになります。

楽しみや苦悩といったものを感じることはできますが、それを「他人と共有する」とか、「他人の感情をくみ取ろうとする」ということが苦手なのです。

空気を読んだり、他人の感情の機微を感じ取ることは難しく、マイルールに従って動くので人によっては自己中心的で冷たい印象を持つことも多いでしょう。
またそれが「パートナー」という立場になっても、相手の感情をくみ取ろうとする能力そのものが低いことは変わりないので、結婚相手は「家族なのに、なぜそんなに無関心なのか?」「家族であることに、何の意味があるのか?」と感じ続けることになります。

こどもが生まれると更に表面化することも

こども二人に子どもがいる場合は、助け合うことや子どもについて話し合う場面は無数にあります。
子どもが熱を出して呼び出されたり、保育園の送り迎えが大変だったり、学校行事の準備をしたり・・・パートナーに「大変だ」と伝え、どれだけの手間と時間がかかるのか、どれだけ大変なのか説明しても相手は「そうなんだ、大変なんだ」と言葉面だけ理解する。
手伝ってほしいといっても自分の都合を優先し、手伝ってくれたとしてもどの範囲をどう手伝うのかを事細かに説明する必要があり、自分でやったほうが早い。

そういう状況が繰り返されることで、まるで自分ひとりで育てているような気分になることも少なくありません。

こどもの体調が悪くて心配していても、パートナーはまるで子どもにも関心がなく、心配しながら看病している自分に対しても何か言葉をかけるわけでもない。協力して子どもを育てていくはずが、子どもに関する話題を出すと、煩わしそうな態度さえ見せる。

自分だけであれば我慢出来ていたものが、子どもの気持ちさえくみ取ろうとしないのだと考えると腹立たしくなり、ストレスが急激に増える転機になる場合もあります。

第三者から共感してもらえない

更に、カサンドラ症候群の苦痛を何倍にも膨らませるのがこの「第三者からの無理解」です。

パートナーが共感性のなさを見せるこそあれ、上記の特性から社会的には問題なく過ごしている場合も多く、第三者からに苦痛を訴えても「あんなに真面目で勤勉な人の不満を言うなんて・・・」と逆に被害を訴えてきた本人のほうが非難されることも多いのです。

そういった状態で、カサンドラ症候群の人がストレスの極限状態にまで追い込まれ、ヒステリーを起こしでもすれば世間の目はますます厳しくなっていきます。

こうしてカサンドラ症候群の人は、二人の関係性を正しく理解してもらう機会を失い、二重の苦しみを味わいどんどん孤立していくことになります。
もともと愛着が安定していた人でも、長期間の「無理解」に晒されれば、精神的に不安定になり心身の不調を引き起こします。
その症状が進んでいくと無力感や猜疑心に苛まれ、ついには「自分なんか生きていたって意味がない」「消えてなくなりたい」とまで感じるようになってしまいます。

カサンドラ症候を引き起こしやすい要因

パートナーの共感性が低いからといって、もう片方が必ずしもカサンドラ症候群に陥るとは限りません。
それでは、カサンドラ症候群に陥る可能性を高める要因は何があるのでしょうか。

性格特性

  • 真面目である

  • 几帳面で、コミュニケーションをこまめにしようとする

  • 我慢強い

  • 面倒見が良い

という人は、相手とのコミュニケーションが上手くいかなくてもなんとか向き合おうと努力し続ける傾向にあります。
ある時は自分のせいでは?と行動を振り返って修正しようとし、それで疲れきっても心の限界が来るまで何度も何度も受け入れ続け、いつの間にかカサンドラ症候群に陥ってしまいあるとき我慢の限界が来る、という段階を踏みやすいのです。

近しい人が共感力の低い特性がある

自閉症スペクトラム障害をはじめとした共感能力の低さが目立つ人と近く、長い時間を過ごす関係性の人はカサンドラ症候群を引き起こしやすいと言われています。
具体的な関係性としては、

  • 結婚相手(交際相手)
  • 両親や兄弟などの家
  • 同僚や上司、部下

などが挙げられます。
一緒にいる時間が長ければ長いほど、距離感が近ければ近いほど、カサンドラ症候群を招く誘因となりますので、多くはパートナーとの関係が取り上げられることが多いでしょう。

共感的応答を多く必要とする人

カサンドラ症候群である人の中には、そもそも「共感的応答」の機会が多く得られないと不安になりやすいケースが存在します。

自分の気持ちを理解してほしい、こまめに注意を向けてほしい、という気持ちが最初から強く、それを相手から得られないと愛されていると感じることが出来ない場合も。
共感的応答が能力的に難しいケースと、共感的応答を多く必要とするケース。その二人が結婚するとなると、当然ながら関係性に問題を生じやすいといえるでしょう。

「もともと共感的応答を多く求めるタイプなら、相手の共感能力が低いことは交際中に気づくのでは?」という声も上がってきそうですが、「共感的応答を多く求める」というのは、「自分のことを愛してもらうために甲斐甲斐しく世話をしたり、過度に尽くしたりする」という言い換えにもなります。

特にカップルの段階である場合、気持ちが盛り上がっていることが多く、さらに相手に尽くしやすい人だと自分の気持ちを顧みず、ひたすら相手のために動いてしまう特徴があります。

関係性を育むなかで、少し違和感を持ったり、「あれ?おかしいな?」と思う振る舞いを相手がしたとしても、自分のせいだと思い込んだり些細な問題だと捉えてしまいがちなのです。
そうなると、相手に気に入ってもらうためにさらに世話を焼いたり機嫌をうかがうことに集中してしまい、自分の気持ちはないがしろにされてしまいます。
その状態に置かれている時点では、「相手の共感的応答が少ない」ことも多少目を瞑ることが多く、相手の関心が低い理由が「相手の共感能力がそもそも低い」からという原因まではまずたどり着かないのです。

しかし結婚しても、どうも相手からの愛情表現が少なすぎる気がする。むしろ、相手はこちらの気持ちや立場に興味がないような素振りさえ見せる。結婚して距離が近くなり一緒にいる時間が長くなれば長くなるほど、その疑いが強くなっていきます。

なぜ自分に興味を持ってもらえないのか?何が悪いのか?と自分の行動を修正し続けても事態は一向に好転しません。
このケースでの行動原理は「甲斐甲斐しく世話を焼く代わりに、愛をもらいたい」という部分もありますから、どう頑張っても共感的応答がまるで得られないことがわかると、まるで期待が裏切られたかのように傷つくようになり、それは怒りに変わっていきます。

カサンドラ症候群の治療

カサンドラ症候群に陥った人は、心身不調を訴えて受診することが多いです。
その時点で自分がカサンドラ症候群を起こしていると自覚している人もいれば、訳も分からずイライラしたり落ち込んだりというのを繰り返している人もいます。

どちらの場合でも、まずはその不調に応じて薬物療法や認知行動療法を行い、症状を軽くすることを目指していきます。

特に第三者にさえ理解してもらいにくいカサンドラ症候群ですから、病院を受診して背景をしっかり理解してもらうこと自体でも、心が少し楽になることもあります。
そのうえで、カサンドラ症候群を起こしている人だけにアプローチを行うのではなく、可能な限りパートナーと「関係性」に対しても少しずつ対処していくことが必要になってきます。

薬物療法

症状に応じて抗うつ剤や抗不安薬、睡眠導入剤などを使用します。
慢性的な落ち込みは脳の神経伝達がうまく働いていないために起こるとされており、抗うつ薬はその脳内環境を調整してバランスを整えることで、気持ちの沈みや落ち込みを改善する薬になっています。

抗不安薬は名前の通り不安や過度の緊張、イライラ感を和らげる薬になります。
睡眠導入剤は、眠りにつきにくいとか眠っても途中で目が覚めてしまうなどの症状がある場合に処方されることがあります。
自律神経失調症も起こしている場合には、そちらに対しても症状に合わせた投薬や漢方薬の処方を行います。

認知行動療法

認知行動療法では、パートナーの関係性で起こる問題点や違和感に焦点を当て、その問題をいかに適切な関わりに変えるか、という部分を具体的に専門家と話し合います。

カサンドラ症候群を引き起こしている本人と、共感性の低いパートナーと双方が同じ場で、二人の関係性について客観視しながら進めていくのが望ましいですが、最初からパートナーも受診させるということは難しい場面も多いでしょう。
特に、グレーゾーンと呼ばれる確定診断がつけられない軽度の発達障害がある場合だと、本人も気づきにくく、なかなか受診までしてもらえないケースも多くあります。

そういった場合は相手に発達障害や各種のパーソナリティ障害・またその傾向があるかどうかにこだわるよりも、まずはカサンドラ症候群を起こしている人の苦痛を和らげるための方策を行うことのほうがよほど重要です。

本人のみでも認知行動療法は可能であり、まずはアプローチを通じて自分の身に起こっていることを冷静に受け止め、苦痛を改善するためにはどうすればいいか、まず専門家と一緒に考えることが必要になってきます。

いったん苦痛が落ち着いてくれば、混乱していた時期と比べるとパートナーとの関係性に対してまた違った見方ができるかもしれません。
薬物療法と認知行動療法、また適度な休養の機会を作ることが状況の改善への近道といえるでしょう。

まとめ

カサンドラ症候群の認知度が少しずつ上がってきたとはいえ、当事者になるとなかなか自分が「カサンドラ症候群を引き起こしている」ということには気づきにくいものです。

相手が発達障害に当てはまるかもしれないが、もしかしたら自分の思い違いかも?自分ではカサンドラ症候群だと思っているけれど、それもただの思い込みかも?と感じてなかなか専門医に相談できないという人もいるかもしれません。

しかし、実態がどうかということに関わらず、症状が出ている時点で「とにかく体が、心が辛い」というSOSを出しているという証です。
カサンドラ症候群ではなくても、不調が起こっている以上はそれを軽くするのが病院やメンタルクリニックの役目となりますし、カサンドラ症候群であれば、まずは医療機関に相談するだけでも孤立しやすい立場の中での支えになることができます。

その「辛い」という本音を大事にして、その苦痛を軽減することから始めましょう。

監修

新橋メンタルクリニック
院長 狩野 彰宏

「メンタルケアで全ての人が今よりも生きやすく輝ける未来を目指して」

明るい未来を紡ぐために、当院は一心一意に皆様の心に寄り添ってまいります。
心のお悩みや困りごとがありましたら、どうぞ何なりとお問い合わせをくださいませ。

院長

「メンタルケアで全ての人が今よりも生きやすく輝ける未来を目指して」

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