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新型コロナ後遺症の精神症状について

はじめに

気力が沸かない新型コロナウイルス(COVID-19)が世界的に猛威をふるい、メディアや医療機関でも、これまで病態から感染予防までさまざまな情報が発信されてきました。
また、新型コロナウイルスに感染した人の中でも後遺症が問題となり、咳が止まらない、筋力が落ちて動けなくなったという身体的症状のほかにも、

  • 落ち込みがひどく、日常生活もままならなくなった
  • やる気がなくなってしまい、仕事を続けることができなくなった
  • 何をするにもおっくうに感じ、活力が出てこない

などといった精神症状が出てくることも明らかになってきました。

実際に、精神疾患(統合失調症や気分障害など)を呈する人はそうでない人よりも新型コロナウイルスに感染しやすく・また死亡率が高いという研究結果があります。
また逆に、新型コロナウイルスに感染した後、他の精神疾患を発症する可能性が高くなるという報告もあり、研究が進むにつれて新型コロナウイルスと各種の精神疾患には相互作用があることが分かってきました。

特に英国の医学雑誌「The Lancet(ランセット)」の中には、新型コロナウイルスに感染後、新規に精神疾患を発症した患者が全体の約13%に及んだと報告している文献があり、特に集中治療室などでの加療を受けた群に至ってはその倍の26%が精神疾患を発症したというデータを示しています。

今回は、

  • 新型コロナウイルスに感染した人の後遺症としてどのような精神疾患や精神症状が現れやすいのか?
  • 具体的にどのような症状なのか?
  • なぜ、後遺症として精神症状が出現するのか?

という部分をかみ砕いて解説していきます。

新型コロナ後遺症の精神症状

新型コロナウイルスに感染後は、全般的に精神疾患発症のリスクが上がるとされていますが、報告の中で最も多かったのは不安障害で新規発症が7%、次に気分障害(うつ病・躁うつ病)で約4%、不眠症が2.5%となっています。

今回は、この3つを主に解説していきます。

① 不安障害(不安症)

 

不安障害名称の通り、強い不安を感じてしまう症状のことです。従来の呼び方は「不安障害」ですが、近年では不安症とも呼ばれています。

人間には、自分にとって危険な出来事・あるいは嫌な場面が予測されると不安を感じるような機能が備わっています。
「不安」があるからこそ危機的状況に向けて準備が出来たり、回避したりすることができるため、本来は必要な心の動きといえるでしょう。

しかし不安障害の場合には、危機的状況でないにも関わらず不安になったり、物事に対して過剰な恐怖を感じるような状態に陥ってしまいます。

 

たとえば、

  • 人前で話すのに過度に不安になってしまい、動悸がしてしまう
  • 仕事や日常生活で常に緊張していて、リラックスできない
  • 些細なことで緊張したり不安になったりする
  • 電話に出るのが極端に怖くなる

などの症状が現れます。
また、これらの精神的不調に加えて、頭痛やめまい・便秘や下痢などの身体的症状が出てくることがあります。

「考えすぎだよ」「心配しなくても大丈夫」と周りの人から言われても、不安・ストレスや恐怖心が軽減されないのも特徴の一つです。
頭では考えすぎだと分かっていても、その考えとは裏腹に心に不安が沸き起こってきたり、強い恐怖心を感じたりするときは、不安障害の可能性を考慮したほうがよいでしょう。

不安障害の分類

不安障害は、更に細かく分類されます。

全般性不安障害

特定の場面に限らず、仕事・日常生活などあらゆるシーンで不安を感じてしまう症状です。
常に自分や身の回りに起こることを過剰に心配します。

家庭や職場、学校、友人・知人など関わりのある範囲をはじめ、自然災害や事故などの人為的災害、さらには自分との関わりがないような場所で起こる出来事を知る機会があった(遠く離れた地の飢饉のニュースを見た・海外の犯罪に関する記事を雑誌で読んだ)など、不安を感じる状況は多岐にわたります。

ネットニュースなどでも不安を引き起こすような内容の記事であった場合に、「報道を見ていてつらい方・気持ちが落ち込んだりした方は相談しましょう」という注意書きがあったり、相談窓口を記載している文面を見かけたことがある人もいるでしょう。
あの表現は大げさでもなんでもなく、実際に記事を見て不安が強くなったりする人が一定数いることを表しています。

常に不安を抱えながら生活しなくてはならないため、集中力がなくなったり、落ち着きがなくなったりして、仕事をしたり日常生活を送ることが困難になることがあります。また、うつ病やパニック障害を併発することもあります。

 

社会不安障害

人と対面して会話したり、集団の前で話す・あるいは行動することに不安や恐怖心を感じてしまう症状です。
人から見られながら何か作業をしなければならないとき、その作業が些細なこと・簡単なことでも強い不安を感じてしまいます。

人前では、誰しもがある程度は緊張してしまうものです。
ところが社会不安障害の場合はその程度が強くなってしまい、必要以上に恐怖を感じることになります。その結果、人前だと赤面したり震えたり、強い腹痛を感じるなど身体症状も引き起こされるため、人前に出ることや症状を引き起こす場面を避けるようになります。

  • 面接が非常につらく、多量に発汗してしまうため就職活動ができない
  • 学校のグループでのディスカッションの際に必要なことが言えない
  • プレゼンの度に過度に緊張してしまい、毎回激しい胃痛に襲われる
  • 視線が集まるのが嫌で、集団がいるような場所には極力近づかない
  • なにか恥をかいてしまうのではないかと不安になり、交際そのものを避ける

「就職」や「進学」、「結婚」などという人生のイベントを考えたとき、これらの症状は非常に大きな制約になることがあります。
症状のせいで諦めざるを得なかったり、そもそもそういう状況になること自体を避ける傾向にあるからです。

 

恐怖症

不安は基本的に「未来」や「今後起こるであろう出来事」に対して感じるものです。
しかし恐怖症になると、実際に存在する対象物(高所や狭い場所、注射針)に対して強い恐怖心を覚えることになります。
全般性不安障害のように日常生活の幅広い場面で起こる症状に対し、恐怖症は限られた状況で起こる症状です。

具体的には、

  • 高所恐怖症:高いところに強い恐怖を感じ、飛行機や観覧車に乗れない
  • 先端恐怖症:注射の針先や先の鋭利な物に動揺し、目に向かってくるような気がして目も開けていられなくなる
  • 閉所恐怖症:エレベーターや狭い部屋などに強い圧迫感・恐怖を感じ動悸がする

などの症状が挙げられます。

限局とはいっても恐怖の対象は個人によって大きく差があり、雷や血液・動物などさまざまです。また程度も、動悸がしたり吐き気を催す・あるいはその場で失神してしまうなど状況によって変わります。

前述のとおり、「不安」というのは誰しも持っている機能であり、少し不安が強かったり心配に感じる頻度が多くても「考えすぎ」「心配性」として片付けられてしまうことが大半です。
ただ新型コロナウイルス感染後、もともとそんなに不安に感じていなかった場面・状況で強い不安を感じるようになったり、日常生活で常に漠然とした不安を感じるようになった、などといった場合は一度専門家に相談してみるのも有効な手段といえるでしょう。

② 気分障害

うつ病・躁うつ病という言葉は聞きなれている人も多いかと思いますが、これら二つは「気分障害」の中に分類されているものになります。

うつ病

気分の落ち込みや意欲の低下などがみられ、疲れがとれなくなったり眠れなくなったりなどの症状も加わり、日常生活や社会生活に支障がでる状態です。
「大うつ病性障害」とも呼ばれます。

うつ病の診断基準
  1. 一日中ずっと気分が落ち込んでいる
  2. 一日中ずっと何に対する興味も起こらず、喜びも感じない
  3. 食欲が低下(あるいは増加)し、体重の減少(増加)が著しい
  4. 眠れない・あるいは眠りすぎている
  5. 話し方や動作が鈍くなる、イライラ・落ち着きがなくなったりする
  6. 疲れやすかったりやる気がでなかったりする
  7. 自分に価値がないと感じたり、自分を責めるような気持ちになる
  8. 考えがまとまらない・集中力が低下する・決断ができない
  9. 自分を傷つけたり、死ぬことを考えたり、あるいはその計画を立てる(自殺企図)

上記に示す項目のうち、

  • 1、2を含む5つ以上の症状がある
  • かつそれが2週間以上続いている

と診察の上で判断された場合、うつ病と診断されることになります。

不安な気持ちが誰にでもあるのと同じで、気分の浮き沈みも誰しもが経験することです。
重要なイベントでの失敗・人間関係のトラブル・仕事でのミス・好きな人との別れなど、生きていれば落ち込むことや悲しいことには必ず遭遇します。
そういう悲しい気分になったときは時間が経過したり、他のさまざまな経験をすることで少しずつ復調に向かい、悲しかった気持ちも元に戻ってきます。

しかし、うつ病の場合は特に悲しい経験があったわけでもないのに悲観的な気分から抜け出せなくなったり、気分が沈みこんだままでいくら時間が経過しても回復せず、むしろどんどん活気がなくなっていったり、落ち込むきっかけになった原因が解消されても沈んだ気分が変わらなかったりなどの症状がみられます。

病状がひどくなると、生活や仕事をするためのエネルギーさえなくなり、起き上がれなくなる・必要最低限の活動だけして後は横になっている・外出さえできなくなる状態になります。

また落ち込みだけでなく、原因不明の体の痛みやしびれなどの症状を訴える例も少なくありません。

躁うつ病(双極性障害)

うつ病は気分の落ち込みのみがみられますが、躁うつ病は躁状態(気分が高揚している状態)と抑うつ状態(気分が沈んでいる状態)を交互に繰り返します。
躁うつ病は更に二つのタイプに大別されます。

  • 双極Ⅰ型:激しい躁状態と抑うつ状態を繰り返す
  • 双極Ⅱ型:軽い躁状態と抑うつ状態を繰り返す
躁状態の診断基準
  1. 自尊心の肥大、または誇大(自分は素晴らしい・能力の高い人間だと信じる)
  2. 睡眠欲求の減少(睡眠時間を確保しなくても元気に活動できる)
  3. 普段より多弁で誰とでも話そうとする・話し続けようとする
  4. さまざまな観念が次々と・同時に浮かび上がりまとまりがなくなっている(アイデアをどんどん出すものの、完遂できず中途半端になってしまう)
  5. 気が散って注意散漫になる
  6. 目標指向性の活動が増加する(学業、仕事・趣味・社会活動などを頑張りすぎる)。あるいは非目標指向性(目的を持たない)の行動がみられる
  7. 困った結果になる可能性が高い活動に熱中する(リスクの高い投資行動に勤しむ・買い物にどんどんお金を使う・性行動に奔放になるなど)
  • 気分が障害され活力が高まっている期間中に、上記の症状のうち3つ以上(気分が易怒性のみの場合は4つ以上)がみられる

気分が高揚する・元気になるのは良いことではないの?と感じる人もいるかもしれませんが、診断基準を見れば、躁状態である場合の問題点がはっきり見えてきます。
急に偉くなったような素振りを見せたり、怒りっぽくなる様子もみられるため、他者とのトラブルに発展することも少なくありません。
特に、気分が落ち込んでいる状態と活力に満ち溢れている状態が交互に現れるため、周囲も混乱することになります。

 

③ 睡眠障害

睡眠に関する症状全般を指します。「睡眠障害」というと不眠症を思い浮かべることが多いかと思いますが、眠れないだけでなく眠りすぎてしまうなどの症状もあります。

睡眠障害の分類

睡眠障害はおおむね下記に分けられます。

不眠症
  • 入眠障害:寝つきが悪く、布団に入ってもなかなか眠りにつくことができない
  • 中途覚醒:夜中に何度も目が覚めたり、朝早く目覚めたりしてその後眠れなくなってしまう
  • 熟眠障害:眠りが浅く、あまり眠った気がしない・夢ばかり見てウトウトする程度の睡眠しかとれない

などといった症状があります。

 

不眠症また、「精神生理的不眠」といって、眠れない状態が慢性化すると「今日も眠れないのでは」「夜が来るのが嫌だ」と睡眠に対して不安・恐怖感を持つようになります。
すると「眠らなくては」「まだ眠れない」と焦ることで神経が過敏になってしまい、不安が強まってしまい結果的に眠れなくなる・眠りが浅くなる・・・といった悪循環に陥りやすいのです。

翌日に重要なイベントや約束ごとがある、などといったときには更に不眠が強くなります。
そのイベントに対する不安や考え事をして眠れなくなったり、「明日は大事な用事があるのに眠れなかったらどうしよう」という不安が入り混じることで、リラックスとは程遠い心理状態になってしまいがちなのも要因として挙げられるでしょう。

 

過眠症

夜間、十分な睡眠がとれているのに日中に急な眠気に襲われるのが「過眠症」の特徴です。
「なんだか眠たいな」というレベルではなく、耐えがたい眠気と表現されます。強い眠気を感じてぼーっとしたり、そのまま眠ってしまうこともあります。

  • ナルコレプシー

日中の強い眠気と睡眠(30分程度)が繰り返し起こります。
状況に関わらず、急に全身の力が抜けて脱力したり、その場に倒れこんでしまうことがあります。目覚めると、一時的に眠気が覚めすっきりした状態になるのが特徴です。
“状況に関わらず”というのは仕事中や作業中などリラックスしていない状況でも起こり得る、という意味になります。

  • 特発性過眠症

日中の眠気・睡眠が主な症状であるのはナルコレプシーと変わりませんが、睡眠は1時間以上続き、目覚めても眠気が覚めることなく、常に眠気がある場合が多いです。

  • 反復性過眠症

強い眠気に襲われる時期(傾眠期)が数日~3週間程度持続します。その後、眠気がなく生活できる時期・再び傾眠期が交互に出現します。
ナルコレプシーや特発性過眠症と比べると、発症頻度は低いのが特徴です。

睡眠時随伴症

睡眠中に、何らかの言動を起こしてしまう症状のことです。

  • 睡眠時遊行症

一般的には夢遊病と呼ばれるもので、睡眠中にも関わらず歩き回ったり、荷物を扱ったり、布団の上に座り込んだりなどさまざまな行動がみられます。

  • 睡眠時驚愕症

夜驚症(やきょうしょう)とも呼ばれ、大声で叫んだりうなったりします。

  • レム睡眠行動障害

夢の中の内容と連動して、寝言がみられたり異常行動(隣にいるパートナーを叩いたり、壁を殴ったりするなど)が出現したりします。

  • 反復孤発性睡眠麻痺

「金縛り」という呼び名が浸透している現象です。入眠時・あるいは覚醒時の数秒〜数分間、手足や体が動かせなくなる症状になります。幻覚を伴う場合もありますが、この症状は健常者でもよくみられますが、頻回に起きる場合は専門医に診てもらったほうがよいでしょう。

上記の症状が、どれくらい続くのかは分かっていません。
治療を開始して半年程度で症状が改善する例も報告されていますが、病状や程度にもよるでしょう。

新型コロナ後遺症の原因

なぜ、新型コロナ後遺症として精神症状が出現するのか?
どういった機序で精神症状を引き起こすのか確立した知見は得られていませんが、複数の仮説が挙げられています。

仮説1.免疫調節系への負担

新型コロナウイルスに限らず、ウイルスに感染したあとは、回復してからも気分が落ち込みやすくなったりうつ病になったりしやすい状態になることが知られています。

人間の体はウイルスに感染すると、免疫調節系の働きによって体温を上昇させ、病原体の力を弱めようとします。結果「発熱」することになるのですが、この際、免疫調節系に大きな負担がかかってしまうことが、うつ病のリスクを高めると言われています。

新型コロナウイルスに感染後重症化し、集中治療室で加療していた患者ほど精神疾患の発病リスクが高まるというのは、それだけ炎症症状が長引いたり免疫機能に強い負荷がかかったため、と考えるとより信憑性も高まります。

ただ、新型コロナウイルスの場合はインフルエンザやその他の呼吸器感染症よりも、あらゆる精神疾患にかかるリスクが高くなると報告されているため、免疫調節系への負担だけでなく、その他の要因も重なっていると考えたほうがよいでしょう。

 

仮説2.感染による心理的負担

新型コロナウイルスが重症化率・感染力の高い未知のウイルスとして世界で大々的に報道されてから、あっという間に「コロナ渦」と呼ばれる環境下におかれました。
私たちは感染予防の徹底・リモートワークなどのオンラインの活用・外出制限など新しい生活様式に身を置かざるをえなくなり、いろんな形でのストレスが社会全体にかかっている状態が長く続きました。

中には、感染予防を徹底していたのにかかったとか、感染したことで大事なイベント・職務を遂行できなくなったという人もいたのではないでしょうか。

感染者数から主な感染経路・クラスターの発生場所に至るまで、社会全体が関心を向けてきた出来事でもあることから、感染したこと自体へのショックや落ち込みが見られてもおかしくはありません。

学校や仕事を休むことへの不安をはじめ、身体的症状(熱発・咳・倦怠感・呼吸困難感)に対する恐怖・他人や社会からどう見られるか?という複雑な要素が絡み合い、一時的・継続的に精神的負担がかかることも要因として挙げられるでしょう。

特に重症化した人や、重症化はしていないものの症状が長引いてしまっていると、いつになったら体が回復するのか・本当に症状が落ち着く日が来るのか、不安も長引くことは容易に想像できます。

身体的負荷だけでなく、精神的負荷が連続して・継続して起こることにより、精神症状が少しずつ現れたり精神疾患を発症するというのは、可能性としては十分あり得る話です。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)との関連性

生死に関わる経験によって心に深い傷を負うと、その後も当時の恐怖感や無力感が繰り返しよみがえり、当事者を苦しめ続けます。
これをPTSD(心的外傷後ストレス障害)と呼びます。
感染当初の辛かった記憶・出来事がまるで今起こっていることのように再現されたり(フラッシュバック)、その時のことだけすっぽり抜け落ちているかのような(解離性健忘)症状が起こります。

新型コロナウイルス感染によって重症化した患者がPTSDと診断された例も多数報告されており、さらにその後不安障害やうつ病の診断を受けている人も少なくないようです。
新型コロナウイルスの感染と症状の程度が、いかに人の心理にダメージを与えるかを示しています。

こちらの場合は落ち込みや不安というよりも大きな精神的ショック、トラウマと呼んだほうがよいでしょう。

 

仮説3.脳神経の損傷

感染後、精神症状とは別に「物忘れがひどくなった」、「仕事上のミスが多くなった」など、感染前と比較して集中力を欠いた状態がみられることがあります。
これはブレイン・フォグ(脳の霧)といって、新型コロナウイルスの研究においても多くの文献で登場する単語です。

つまり、新型コロナウイルスの感染症状が落ち着いても、脳にもやがかかった状態・つまりぼーっとしたり、集中力に欠けたり、まるで認知症のような症状が現れやすいことを表しています。
その他にも、

  • 人や場所・時間が分かりにくくなる
  • 記憶力が悪くなる・以前記憶していたことを思い出せなくなる
  • 会話中や作業中に、うわの空になってしまう

といったような症状がみられます。

まだ正式な医学用語ではないものの、新型コロナ後遺症として全患者の40%近くがこのブレイン・フォグに苦しめられており、なぜこのような症状が起こるのか、原因を究明する研究も積極的に進められてきました。

しかし、なぜブレイン・フォグが起きるのか、現在でも正確な原因は突き止められていません。ただ最近の研究で、新型コロナウイルスは脳の血液脳関門(脳にウイルスが入り込まないように守っている部分)を傷つけるため、炎症性物質が脳内に入り込み、微細な脳神経の損傷を起こしているのではないかという仮説を立てている論文もあります。

また、神経細胞同士を繋ぐ「シナプス」を積極的に破壊することも明らかになっています。シナプスは神経細胞が他の神経細胞へ情報を伝達するために必要な部分であり、つなぎ目です。
正常な脳である場合、何度も情報が伝達される部分はシナプスが多く存在し、不要な部分はシナプスが消去されていきます。

たとえば仕事で必要な作業を覚えるために、何度も反復して練習すると、特定の部分の情報伝達が繰り返し行われて、その分シナプスが増えます。伝達が強化され、そのうち努力しなくても自然とできるようになります。
しかし、その作業が必要なくなって行わなくなった場合、シナプスは消去されていきます。私たちは不要な情報・あまり使っていない技術は忘れるような仕組みになっているというわけですね。

ところが新型コロナウイルスに感染すると、このシナプスの消去が積極的に行われてしまいます。強化されていた部分も伝達が阻害されてしまうことになるため、結果、もともと出来ていたはずのことが出来なくなったり、作業中にミスをしがちになり、覚えていたはずの物事を忘れてしまう・・・といった症状が出るのではないか、という仮説です。

更に、ミスに対する落ち込みや集中力低下が慢性的に続くことにより抑うつ状態を招き、うつ病を呈するといった状況もみられます。

セロトニン不足との関連性

上記の脳の炎症やシナプスの消去現象は、セロトニンの分泌を阻害するのでは、とも考えられています。
セロトニンというのは、精神の安定を図ったり脳を活発に働かせる役割を持つなど、私たちが活力を持って生きるために必要不可欠な脳内物質です。

上記に紹介した「不安障害」「うつ病」「不眠症」とも密接な関係があり、抗うつ剤の中には脳内のセロトニンを増やすことで病状を改善させる役割を持つものが多く存在します。
「幸せホルモン」という呼び名がつくほど、精神的な健康を保つ効果があるのです。

新型コロナ後遺症の治療

新型コロナウイルス後遺症の精神症状に対する治療は確立されておらず、症状や状態に合わせた治療を行います。

薬物療法

抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬・漢方薬をメインに治療を行います。
抗うつ薬は脳内環境を整える働きをもち、意欲の低下や自分に対する無力感・不眠といった症状を改善するために使用します。
抗不安薬は、不安や過剰な緊張を軽減させるために処方されます。

抗うつ薬も抗不安薬も程度や症状に応じて、その人に合った治療薬が選択されることになります。

睡眠薬は、睡眠を十分にとって心身の疲労を回復し、さまざまな精神症状の改善を促進するために使用します。睡眠というのは自律神経を整えるためにも重要な要素であり、不眠症からうつ病に移行することもあれば、うつ病で不眠を引き起こす場合も多くみられます。

うつ病が改善したとしても睡眠が十分にとれなければうつ病を再燃させる可能性もあり、さらに不眠を加速させる原因にもなるでしょう。
同時に改善させていくのが重要ということですね。

漢方薬は、上記の薬と併用することで、心の不調と共に体の不調の改善も期待できます。
西洋薬に比べると減量したり調整しやすいというのも特徴です。

特に落ち込みが強いときは治療に対しても意欲が起こりにくいものですが、まずは今苦しんでいる症状そのものに対して薬を用いて軽減させることが、改善の第一歩になります。

まとめ

今回は、新型コロナウイルス感染症後に現れる主な精神症状についてお伝えしてきました。

新型コロナ後遺症についてはまだまだ分かっていないことも多いですが、コロナ渦による生活環境の大きな変化や新型コロナウイルスに感染することによる急激なストレス、脳や免疫機構への影響などさまざまな仮説が立てられています。

なんとなく陰鬱な気分になっても、「みんな環境が変わっている中で我慢しているのだから」「症状は治まったのだから、大丈夫」という気持ちで乗り切ろうとする人も中にはいるでしょう。

ただ、精神症状の項でお伝えした内容と似た症状が出てきたり、あまりにも疲れがとれず気力が沸いてこないとか、毎日辛い気持ちで仕事にいかないといけないとか、そういった場合には専門医に相談するのが確実でしょう。

新型コロナウイルス感染前と感染後では「人生そのものが大きく変わってしまった」と感じる人がいるのも事実です。
不安が強くなってしまい生きづらくなったという場合など、状況が明らかに変わった場合は、症状が進む前に早めに治療を始めることが大切です。

監修

新橋メンタルクリニック
院長 狩野 彰宏

「メンタルケアで全ての人が今よりも生きやすく輝ける未来を目指して」

明るい未来を紡ぐために、当院は一心一意に皆様の心に寄り添ってまいります。
心のお悩みや困りごとがありましたら、どうぞ何なりとお問い合わせをくださいませ。

院長

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